花ちゃんがまったく見えないほど遅れている!

僕だけ止まって花ちゃんを待つ。

10秒・30秒・1分・・・


2分ほどしてやっと花ちゃんがやってきた。

随分やられた表情をしている。


気分が悪いので丸瀬布の道の駅で休んでいくとのこと。

休んだ後、DNFするか先へ進むか考えるとのこと。

だから僕には先に進んで欲しいとのこと。


これを聞いて観念した。

残念だけど花ちゃんの挑戦はここで終わったと思った。


出来れば無理をせず丸瀬布でゆっくり休んで今の道を下って遠軽の駅から輪行して欲しい。

疲れた頭と体で先へ進んで、熱中症とか事故に会わないで欲しいと思った。


今度は僕が怖い顔をする番だ。


ブルベは自己責任だからね。自分で自己管理して下さい。いいね、出来るね!


無理しないでDNFするんだよ。という意味だった。

だって現在の段階で貯金は0に近い。これから700m以上登らなくてはならない。

最後は8kmで480m登る今回屈指の厳しい峠が待っている。

絶対に今から休んでいちゃあ無理だ。

それどころか自分も危ない。


花ちゃんは神妙な顔をして頷いた。

その頷きを見て自分は見をひるがえした。

北見峠そしてその先のゴール目指してまっしぐらに進んだ。


花ちゃんを残して。


進むのはいいが、Y田さんメイン集団とは随分差がついてしまったらしい。

メイン集団に追いつかなければ完走は難しい。


現に暑さのためかサーマル現象が起き、結構な向かい風になっている。

今まで風よけでトレインを利用することを考えてこなかったが今回は切望した。

花ちゃんを置いてきた以上、なんとしても完走したかった。

Sさんの広い背中が恋しかった。

幸い、陸別からゆっくりペースが続いていたので脚が復活してきている。

ダンシングを多用して集団を追う。


脚が終わってもそれはしょうがない。

集団に追いつけなければ同じ事だ。


花ちゃんが休むと言っていた丸瀬布の道の駅あたりで集団に追いついた。

Y田さんに花ちゃんのことを報告して、最後尾につかせてもらった。


集団に追いついて楽になってくると同時にまた自問自答が始まった。


一蓮托生のはずだったんじゃねーのか?

笑わせるぜ。

あの変わり身の早さはさすがだね。

これで自分だけ完走出来る可能性が高まったね。

だけど本当にそれでいいのか?


意地悪な自分の分身がするどく問い詰めてくるが、追い払った。

今回初めて完走に対する欲が出てきた。

なんとしても完走したかった。

だから、もう花ちゃんのことを考えるのはやめた。


もう終わったことだから。


北見峠への道は予想どうり厳しかった。

それに暑さが加わり集団のペースも落ち気味だ。


それに今度はchikaさんが暑さのため体調を崩してしまった。

Sさんがつき、集団はふた手に別れて進む。


6%の傾斜になってからbongoさんとHさんが先行するようになった。

自分はあくまもY田さんにつく。

Y田さんの頭脳とスキルに感服しているからだ。

この人に付いて行けば間違いがない。


ほぼ寝ないで400km走り続けた後の北見峠。

6%で8kmそして灼熱地獄。

本当に厳しい戦いだ。


峠頂上から3kmほど前のトンネルでY田さんが休憩する。

bonngoさんとHさんはもう頂上に付いている頃だろう。

休んだのはたぶん、chikaさんとSさんを心配してのことだろう。


10分ぐらいでchikaさんとSさんがやってきた。

あれだけ登りが強かったchikaさんも暑さにやられ苦しそうだ。


二人の到着を見届けてY田さんと自分も出発する。

我々が最後尾だと思っていたのだが、この北見峠がよっぽど過酷だったのか他の参加者も見かけるようになってきた。

みんな苦しそうだ。


果てしなき戦いもいつか終わりの時がくる。

北見峠登頂!

IMG_0730














chikaさんとSさんもほどなくやってきた。

後は、少しでも休憩時間を稼ぐため上川のPC7まで下るだけだ。


下っている最中、また眠気とハンガーノックのような症状が出てきたので止まって氷水をかぶり、持参した蜂蜜スティックとブドウ糖を口に入れる。


自分は眠い時、氷水をかぶるとリフレッシュ出来てまた走れるようになる。

また蜂蜜スティックとブドウ糖は本当に即効性があって助かる。


高速が出る下りの最中なのでそれでも安全を期すために5分ほど休み、それからまた飛ばすとちょうどPC7につく頃メイン集団に追いついた。


PC7 14:50着 クローズドは 15:28。


スタッフのかたがいらっしゃったので、花ちゃんのDNFの連絡があったか尋ねるもまだないとのこと。

いやな予感がする。

道の駅で相当具合が悪くなったのだろうか?


誰かが30分でも寝ると随分違うからまだ走っているのかもしれないと言うが、あの北見峠に向かって走っているとは到底考えられない。

たとえ向かっていても間に合うわけないのに。


PBP完走者達がこんなに苦労した道のりだから、花ちゃんには無理だ。


とにかく無事を祈ってクローズぎりぎりまで休んで出発することになった。

15:18頃のことである。


バイクにまたがり右脚のクリートをペダルにはめた時、その時。

目の前にピンクの物体が飛び込んできた。


亀太郎ジャージを着た花ちゃんが凄い勢いでPCに飛び込んできたのだ。


最初何が起きたのかよく理解出来なかった。

なぜ花ちゃんがここにいるのか分からなかった。

皆も同じだったのかポカンと花ちゃんを見つめるだけで誰も声を発しない。


花ちゃんもよほど緊張感をもって急いできたのか、その怖い顔のまま固まって皆をただ見詰めている。


自分が最初に

「クローズが迫っているんだ。早くレシートを」

と言うとHさんが

「何か、何でもいいからとりあえず買って来なさい」

と優しい声をかけてくれた。


花ちゃんもはっと我にかえったみたいに自転車を降りてコンビニの中に入っていった。


奇跡が起きたのだ。

奇跡と言っては頑張った花ちゃんに失礼か?


いややっぱり奇跡だろう。

体力的にも精神的にもよく耐えてここまで頑張ってきたものだ。


普通の状態ではない。

何度も言うが寝ずに400km走って後である。

最終集団から別れ丸瀬布の道の駅で30分ほど休んだらしい。

それから一人でだれも参加者のいない正真正銘の最後尾を、あの灼熱の北見峠を越えてクローズド8分前に間に合わせたのだ。


見上げた精神力だ。


こんな強い精神を持っている人に、自分は可哀想だの一蓮托生だの見捨てただの、なんて自分勝手で的外れで失礼なことを思ってきたのだろうか。



この人は誰も助けもなく自分自身の力でやり遂げる人だ。

また花ちゃん自身もそれを望んでいるのではないか。


胸の奥が熱くなって、次は眼の奥が熱くなってきた。

やばい!


予定どうりY田さん達は出発するみたいだ。

自分は花ちゃんと一緒にいくかちょっと迷ったけど、もう花ちゃんはそういう気遣いはいらないような気がした。


本当に花ちゃんに手助けが必要ならばY田さんが言ってくれるだろう。


自分もY田さん達と一緒に出かけることにした。

花ちゃんは必ず次のPC8まで来るとの確信があった。

それほど北見峠越えは、奇跡的なことだったのだ。


PC8までの道は、それほど大変ではない。

下り基調で進み最後にちょっとアップダウンと最後に塩狩峠という小峠があるだけだ。


ところがchikaさんの具合がやはり悪いらしい。

Y田さんとSさんがchikaさんについて、bongoさんとHさんと自分が先行することになった。


3人になったとたん、bonngoさんの鬼引きが始まった。

まるで今までの走りは仮の姿であるかのように。

和寒前のアップダウンをグワングワン力強いペダリングで越えていく。

Hさんもそれに付いてペースアップする。

自分も意地で付いて行く。


案外脚が回るのに嬉しい驚きを感じた。

ダンシングもまだまだ充分可能だ。


このまま付いてPC8まで行こうかと思ったが、やはりまだ100kmもある。

未経験ゾーンを走っているので、今ちょっと調子が良いくらいで脚を終わらせてしまっては元も子もない。


離脱して自分のペースで進むことにする。

塩狩峠でmarioさんが写真をとっていた。

この方もPBP組だ。


なぜこんなギリギリ隊にいるのかわからないがブログで結構やられたと書いてあったので、やはり疲れたのであろう。

結構過酷だったんだよ、今回の大雪600は!


PC8着 17:19。クローズド 18:16。


PC8ではY田さん達と花ちゃんを待ちながらゆっくりとした。

marioさんが冷やしうどんを食べていて、美味しそうだったので自分も買って食べた。

Hさんは気持ち良さそうに寝ている。

IMG_0731














そのうちY田さん達が着いた。ほどなく花ちゃんも来た。

Y田さんから、HさんのGPSが壊れたので先導して二人で先に出てくれないかと頼まれた。

それはもちろん構わないのだが、やはり花ちゃんのことが気にかかる。

もう大丈夫だと思っていたが、今入ってきた時の顔を見るとそうとうやられ感が出ているような気がしたからだ。


そこでY田さんに花ちゃんと一緒に行ってくれないかと頼むと、そんなことは先刻承知でもう花ちゃんに言ってあるとのこと。

さすがY田さん!


やったー!これで安心。

Y田さんと一緒に走れるのならあと90km、なんとか完走できるだろう。

それにしてもここまでこれたのは、花ちゃん自身の力だ。

本当に凄い娘だ。


自分はここまできたら絶対に完走するつもりだし、自信もあった。

Hさんを引くという大業が課せられたが、それもいい刺激になって眠気覚ましになって良いかもしれない。


飛ばした。PC9までもう脚も折れよとばかりに踏むし回すし。

しかし、Hさんもぴたりと付いて離れない。


この区間は延々のそば畑。

群青色の空と夕日と白い蕎麦の実。

実に美しいところだった。

P1000538




















間違ってPC間の距離が40kmだと思って飛ばしたのだが、実際は60kmあると分かって最後の20kmはタレてしまったが、良いペースで沼田PC9着。


PC9着 20:57 クローズド22:16

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残り30kmで貯金が1時間20分ほど。

ここからゴールまではほぼ平坦。

よほどのことがないかぎり完走が見えてきた。


ここまで来たら、危険を犯してまで飛ばすのは愚の骨頂とゆっくり行くことにした。

Hさんもそれで良いとのこと。


暗闇の中どこまでも続く一本調子の道を20km/hほどで淡々と進む。


そして22:44 ゴール。

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体調不調でDNFしたチコリンさんがスタッフとして手伝っていた。

偉いね。

ちこりんさん、美味しいコーヒーありがとうございました。


早く着いてた健脚の亀太郎の男の人が、心配そうに花ちゃんを待っていた。

いったい何時間待っているんだ?

偉いね。


チコリンさんから、PC9を充分間に合う時間にY田さん達と花ちゃんが出発したと連絡があったと聞かされた。


それは聞かなくても分かっていた。

あの北見峠を一人で越えてPC7でY田さんと会ったその時に運命は決していたと思っている。


その運命を手繰り寄せたのは、花ちゃんの精神力と頑張りだ。

たぶん辛かったと思うよ。自分が想像するよりずっと。


花ちゃん達の到着を待つかどうか随分迷った。

Y田さんにお礼をいいたかったし、花ちゃんにも一言おめでとうと声をかけたかった。


しかし、その時自分の感情をコントロール出来る自信がなかった。


だからさっさと江部乙の温泉宿に帰って風呂入って寝てしまった。


朝起きてから気付いた。

そう言えば自分も完走してSR取得出来たんだと。

すっかり忘れていた。


Y田さん、そして一緒に走っていただいた皆さん。

本当にありがとうございました。


Y田さん、花ちゃん完走できて良かったですね。

Y田さんの北海道を一人でも多くの人が楽しんで、出来れば完走していってもらいとの思いが今回天に通じたのだと思います。


花ちゃん、おめでとう。

また機会があったら一緒に走って下さい。


だけど、今度会うときは、恐ろしい健脚姫になっていそうで嫌だな。

その時は知らんぷりしようっと。


こうして僕の北海道 大雪600kmは無事終了した。





ブログ、どうしてこんなに長くしたの?


あっ?優子?いたんだ?


いたんだじゃないわよ。

4日間もほったらかしにされて、バッテリーあがっちゃったじゃない!

どうしてくれんのよっ!


そうか、ごめん・ごめん。

でも、ついに600完走したぞ。

思えば厳冬の雪道を優子と飛ばして関東のブルベに毎週通ったよね。


ふん、そうでしたかね?


そうさ、優子のお陰もあって目標のSRを取れたんだぜ。


よかったねー、なによ!花ちゃん、花ちゃんって馬鹿のひとつ覚えみたいに。


あれ~? 優子、妬いてるのぉ~?


ばっかじゃないのっ!!!!